労災があっても所定の届け出をせずに、健康保険を使うように指示されるケースが少なくないようです。これは、いわゆる労災隠しです。主な原因には次のようなものがあります。
労働保険料が上がるから
自動車保険は無事故のドライバーほど保険料が安く、事故が多くて何度も保険金を受け取っているドライバーは割高になります。労災保険もこれと同様に、メリット制といって事故の件数が多いほど保険料が高くなる場合があります。
つまり、保険料が上がることを恐れて労災隠しをすることがあるのですが、現実には、上がらない場合も多いのです。例えば、通勤中の事故などの災害に関しては会社に責任がないので保険料は上がりません。
小規模な事業所の場合も上がりません。労災保険率を引き上げたり、引き下げたりする仕組みは、メリット制という制度が適用される場合です。メリット制の対象となる会社の範囲(有期事業は除きます)は「労働者が100人以上いる会社」または「労働者が20人以上100人未満で災害度係数が0.4以上の会社」と定められています。
まず、20人未満の会社はメリット制の対象から外れています。いくら労災を使っても労災保険率が引き上げられたりすることありません。
20人以上100人未満の場合は、ちょっと複雑ですが、いずれにしても事故がおこれば必ず保険料が高くなるというのは間違いです。
世間体を心配する
事故が表ざたになると世間体が悪いとか、取引上不利になるという心配から労災隠しをするケースがあります。
現実には、マスコミに報道されるような大きな事故でない限り、労災の手続きが世間にばれることはありません。
下請け仕事をしている場合には、労災にしないように元請けから圧力がかかることがあると聞きます。違法な圧力ですが、取引関係を盾にとってのことですから、困ったことです。しかし、どんな理由があっても労災かくしは許されません。
監督署が来ることを嫌がる
1回の事故で直ちに労働基準監督署が調査に入ることは、めったにありません。しかし、重大事故の場合や、軽い事故でも何度も重なれば、事実確認のため、あるいは再発防止指導のために調査が実施される確率が高いのは確かです。
労働基準監督署の調査があれば、その事故のことだけを調べて帰ることはあまりありません。ついでに、就業規則やタイムカード、労働者名簿、賃金台帳くらいは見ていきます。そうすると、事故に関係ないところの違反があぶりだされることがあります。こうした事態を嫌って、労災事故の申告を忌避する事業主も多いようです。
会社の言い訳パターン
労災の対象は正社員だけ、君は対象にならない
ウソです。労災は、正社員はもちろん、パート、一時間だけのアルバイトでも、全ての労働者が対象になります。このようなことを言う職場は、労働保険料を申告する際に、パートやアルバイトをカウントせず、保険料をごまかしている場合があるようです。 保険料を払っていなくても、労働者は労災保険の給付を受けられます。ただし、会社はその給付費用を徴収されたり、保険料をさかのぼって納付しなければならないことになります。
ウチは労災に入っていないから労災は使えない
実際に入っていない会社も確かにありますが、労災が発生すれば、日付をさかのぼって強制加入させられます。つまり、加入の手続きをとっていなくても労働者は労災保険の給付を受けることができます。
手続きが面倒だから治療費は会社がもつ
予想に反していつまでも治らないかもしれません。後遺症が残るかもしれません。こいうケースはもめごとの種をつくるようなものです。後日になって労働者の申告で発覚すれば、労災保険への切り替え手続きに労力を費やされるほか、労働基準監督署からのペナルティも覚悟しなければなりません。
誰も見ていなかったから労災かどうかわからない
労災の申請書には、事業主が事故の状況について証明する欄があります。しかし、どうしても会社が書かない場合には、労働者は会社の証明がなくても労働基準監督署に申請することができます。労災かどうかは労働基準監督署が判断することであって、会社が勝手に判断することではありません。
トップページ>労災保険をもっと気軽に>このページ